大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)11759号 判決 1988年3月22日

原告

上田真由美

被告

森近國勝

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自二〇八万四九三三円及び内金一八九万四九三三円に対する昭和六二年一二月二二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自六七六万五四〇五円及び内金五七六万五四〇五円に対する昭和六二年一二月二二日以降完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  1につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故(以下本件事故という。)の発生

(一) 日時 昭和六〇年一一月一九日午後六時二〇分ころ

(二) 場所 大阪市平野区川辺三丁目三番一〇号(以下本件現場という。)

(三) 加害車 被告森近八重子(以下被告八重子という。)

運転の普通乗用自動車(泉五八み二七四六)

(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車(東大阪市お六一〇二)

(五) 態様 側面衝突

2  責任原因

(一) 本件現場は、北行一方通行の三車線の南北の道路と片道各一車線の東西の道路が交差している交差点(以下本件交差点という。)内であり、南北道路のすぐ東側は高架(近畿自動車道)となつている。原告は、東西道路を被害車を運転して西進し、高架下を通過して先行乗用車に追随して本件交差点に進入し、西側の安全を確認し徐行しながら右折して北進し、右折をほぼ完了したところ、突然かなりの速度で東進してきた加害車が被害車左側面に衝突した。

(二) 被告八重子は、本件交差点に進入する際、前方左右を確認し、特に対向の右折車の有無に注意し、右折車があれば、徐行、停止、警笛をならすなどの注意をすべきところ、それら注意を怠り、漫然とかなりの速度で本件交差点に進入した過失により本件事故を発生させた。

(三) 被告森近國勝(以下被告國勝という。)は、加害車の所有者であり、自己のために加害車を運行の用に供していたものである。

3  受傷及び損害

(一) 原告は、本件事故により左脛骨解放性骨折、左下腿挫創の傷害を負つた。

(二) 原告は、昭和六〇年一一月一九日から昭和六一年二月二三日まで緑風会病院に九七日間入院加療した後、同年九月一九日まで同病院に通院加療(実日数二六日)し、後遺障害として自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表(以下別表という。)一二級七号の等級認定を受けている。

(三) 原告の被つた損害は次のとおりである。

(1) 治療費 五二万九〇〇〇円

(2) 看護料 八一万三八五〇円

(3) 入院雑費 一〇万六〇〇〇円

一日一〇〇〇円宛一〇六日分

(4) 交通費 一〇万円

(5) 下肢用装具費 六万四七〇〇円

(6) 家政婦代 四〇万円

原告の子供が小学生であつたため、原告入院中に世話を頼んだ人への報酬等

(7) 休業損害 一九六万四七五二円

平均賃金を基礎として症状固定日まで。

19万3900(円)÷30(日)×304(日)=196万4752(円)

(8) 入通院慰謝料 一五〇万円

(9) 後遺障害慰謝料 二〇〇万円

(10) 逸失利益 六七一万八六三五円

平均賃金を基礎とし、別表一二級の労働能力喪失率一四パーセント、就労可能年数三七年の新ホフマン係数にて計算。

19万3900(円)×12(月)×0.14×20.625=671万8635(円)

(11) 弁護士費用 一〇〇万円

よつて、原告は、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、本件事故による損害賠償内金として、被告らに対し、各自六七六万五四〇五円及びこれから弁護士費用を差し引いた内金五七六万五四〇五円に対する本件不法行為の日の後である昭和六二年一二月二二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(四)はいずれも認め、(五)は否認する。

2  同2(一)は否認し、(二)のうち被告八重子に過失があることは認めるが、その内容は否認し、(三)は認める。

3  同3(一)(二)及び(三)(1)(2)はいずれも認め、(三)(3)ないし(11)はいずれも不知。

三  抗弁

1  過失相殺

被告八重子は、本件交差点に対面青色信号にしたがつて進入し東進していたものであるが、被害車と加害車が衝突した地点は、本件交差点の北東角からさらに東寄りの地点であり、もはや交差する南北道路の横断を修了しようとするところであつた。原告は、本件交差点で東から西へ直進し、ないし北へ右折するについては、一時停止の道路標識が路上に表示されているのであるから、信号にしたがい直進してくる加害車の進路を妨害しないよう待機すべき注意義務があるのにこれを怠り、いわば飛び込むように加害車の直前を横断したため本件事故が発生したものであり、本件事故発生についての双方の過失割合は、被告八重子四割、原告六割というべきである。

2  損害のてん補

原告の損害のうち、四二二万七四五〇円がてん補されている。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、原告に何がしかの過失があることは認めるが、その余は否認する。本件事故の態様は、前記請求原因2(一)のとおりであり、原告の過失割合は三割程度である。

2  抗弁2は認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  本件事故の発生

1  請求原因1(一)ないし(四)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証、いずれも昭和六二年一〇月二八日及び同月二五日撮影の本件現場付近の写真であることに争いのない検甲第一ないし第一二号証及び検乙第一号証の一ないし六、被告八重子本人尋問の結果、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる乙第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故発生状況につき次のとおり認めることができ、これ以上に具体的な事実関係を認定することができないことは後記五12で検討するとおりである。

(一)  本件現場は、北行一方通行三車線の南北道路と片道各一車線の東西道路が交差し信号機により交通整理の行われている交差点内であり、本件交差点のすぐ東側は近畿自動車道の高架となつている。

(二)  被告八重子は、被害車を運転して、東西道路の東行車線を東進して対面青色信号で本件交差点に進入したところ、折りから、被害車を運転して東西道路の西行車線を西進して対面青色信号で本件交差点に進入し北へ右折進行中の被害車を運転していた原告の左足に加害車左前部を衝突させた。

二  責任原因

被告八重子に過失があること及び請求原因2(三)の事実はいずれも当事者間に争いがない。したがつて、被告八重子は民法七〇九条に基づき、被告國勝は自賠法三条に基づき、それぞれ、本件事故により生じた原告の損害を賠償すべき責任がある。

三  受傷、治療経過及び後遺障害

1  請求原因3(一)(二)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

2  いずれも成立に争いのない乙第二号証、第三号証の一及び弁論の全趣旨によれば、原告は、症状固定とされた昭和六一年九月一九日以降も、緑風会病院に、経過観察のため、同月二六日、同年一〇月三日、一七日、二四日、同年一一月二一日、昭和六二年一月九日、同年三月一三日、同年四月二四日、同年五月六日に通院した後、同月一四日から二二日まで抜釘のための手術を行うため九日間入院し、その後の経過観察のため、同月二九日に通院したことが認められる。

四  損害

1  治療費 五二万九〇〇〇円

当事者間に争いがない。

2  看護料 八一万三八五〇円

当事者間に争いがない。

3  入院雑費 一〇万六〇〇〇円

経験則上、入院雑費として原告が自認するとおり、一日あたり一〇〇〇円要したものと認められ、原告の入院期間一〇六日間では右額となる。

4  交通費 八万三七二〇円

弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一〇号証の一ないし三四によれば、原告は、本件事故による受傷の治療に要する交通費として右額を要したことが認められ、これを超える交通費を要したことを認めるに足りる証拠はない。

5  下肢用装具費 六万四七〇〇円

成立に争いのない乙第九号証、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したと認められる乙第八号証によれば、請求原因3(三)(5)の事実が認められる。

6  家政婦代 四〇万円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(三)(6)の事実が認められる。

7  休業損害 一九六万四七五二円

原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、原告が自認するとおり一か月一九万三九〇〇円程度、すなわち、一日あたり六四六三円の収入を得ていたものと認めるのが相当であるところ、原告の受傷の部位、程度、入通院状況、症状固定時、後遺障害の程度に鑑みれば、原告は本件事故の翌日以降症状が固定した昭和六一年九月一九日まで三〇四日間休業を余儀なくされたものと認めるのが相当である。そうすると、その休業損害は頭書全額となる。

6463(円)×304(日)=196万4752(円)

8  後遺障害による逸失利益 四七八万二七四四円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる乙第五号証によれば、原告は雇傭主の配慮により本件事故前と同様の収入を得ていることが認められるけれども、原告の後遺障害の部位、程度(自賠責保険の関係で認定された別表一二級七号は、「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」であつて、生涯改善の余地のない器質的障害であること)に鑑みれば、原告は右後遺障害のため、将来の昇給や転職の際に不利益を受ける蓋然性は高いものと認められる。したがつて、原告は、昭和六一年九月二〇日以降就労可能年齢である六七歳までの三六年間、その労働能力を少なくとも一〇パーセント程度喪失するものと認めるのが相当である。そうすると、原告の将来の逸失利益を前記のとおり日収六四六三円を算定の基礎として年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると頭書金額となる。

6463(円)×365(日)×0.1×20.2745=478万2744(円)

9  慰謝料 三五〇万円

原告の受傷部位、程度、入通院状況、後遺障害の内容等その他諸般の事情に鑑みれば、右額とするのが相当である。

五  過失相殺

1  原告及び被告八重子双方が主張する本件事故の態様

(一)  原告本人尋問の結果及び前記乙第六号証によれば、原告は、被害車を運転して、東西道路の西行車線左側を走行し、対面信号青で、赤色の自動車とほぼ併進して本件交差点に進入後、本件交差点のほぼ中央南側部で一旦停止し、左方向を見て東西道路の東行車線を本件交差点へ向つて走行してくる車両の有無を確認したところ、加害車を認めたが本件交差点に進入するにはまだ相当距離があつたので、時速約五ないし一〇キロメートルの速度で北へ右折進行し、本件交差点のほぼ中央で、被害車左側部と加害車左前部とが衝突した、というものである。

(二)  一方、前記甲第一号証及び被告八重子本人尋問の結果によれば、同被告は、加害車を運転して、時速約二〇ないし三〇キロメートルの速度で、前記東西道路の東行車線を走行して本件交差点にさしかかり、対面信号青で交差点に進入し、東西道路の西行車線から本件交差点に進入して北へ右折していつた青色の普通貨物トラツクを認めた後本件交差点ほぼ中央まで進行したところ、東西道路の西行車線右側から本件交差点に進入しようとする原告運転の被害車を前方約一三・一メートルの地点に認めて衝突の危険を感じ急ブレーキをかけたが及ばず、約五・六メートル進行した地点で、小回りで北へ右折してきた被害車左側部と加害車左前部とが衝突した、というものである。

(三)  そして、右(一)(二)によれば、被告八重子には前方不注視等の過失が、原告には左方不注視等の過失があることがそれぞれ推認されるところ、右(一)の事故態様に鑑みれば、被告八重子の過失の方が原告のそれよりも重いと考えられ、一方、右(二)の事故態様に鑑みれば、原告の過失の方が被告八重子のそれよりも重いと考えられる。

2  ところで、右1(一)(二)掲記の各証拠のいずれを正当として採用すべきかを決する客観的な資料を見い出せない本件においては、本件事故態様が右1(一)(二)のいずれであるかを認定するのは困難である。すなわち、前掲甲第一号証は、本件事故当日になされた実況見分の結果を記載したものであるけれども、それには路面に印象されたスリツプ痕あるいは擦過痕等客観的な痕跡がなく、また、原告が立会わず、立会つた被告八重子だけの指示説明に基づいて作成されたものであるから、前記(一)掲記の証拠を排斥するに足る客観的な証拠ということはできない。また、前掲乙第六号証は原告が事故後その記憶に基づき作成したものであり客観的なものではない。そして、他は両本人の相反する供述のみが本件事故発生状況についての証拠として存在するにすぎず、結局、そのいずれをも正当として採用することができないといわざるをえない。そうすると、本件事故発生状況としては、前記一2で認定した以上に具体的な事実関係を認定することができない。

3  前認定した本件事故発生状況によれば、原告には、東から北へ右折するに際し西から東へ進行してくる車両との安全を十分確認しなかつた過失が、被告八重子には、西から東へ直進するに際し、東から北へ右折してくる車両との安全を十分確認しなかつた過失が、それぞれあるものと推認するのが相当であるところ、本件では、その具体的な過失の内容及び程度の軽重について、具体的な事故発生状況を前提として比較検討することができないので、本件事故発生については、原告及び被告八重子の各過失が平等の割合をもつて寄与していると推認するのが相当である。

4  右によれば、過失相殺として原告の損害の五割を減ずるのが相当と認められる。そうすると、被告らにおいて賠償を要すべき原告の損害額は、前記四の損害合計一二二四万四七六六円から五割減額した六一二万二三八三円となる。

六  損害のてん補 △四二二万七四五〇円

抗弁2の事実は当事者間に争いがない。したがつて、被告らにおいて賠償を要すべき原告の損害残額は、前記六一二万二三八三円から右四二二万七四五〇円を差し引いた一八九万四九三三円となる。

七  弁護士費用 一九万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、右額とするのが相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自二〇八万四九三三円及びこれから弁護士費用を差し引いた一八九万四九三三円に対する本件不法行為の日の後である昭和六二年一二月二二日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐堅哲生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例